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司教のヤナギダは毎朝欠かさない礼拝を終え、庭で書物を読むことにふけっていた。

テーブルに高々と詰まれた本は常人には読めないような言語や記号が羅列されており、ただでさえ近づきにくい雰囲気をまもっているヤナギダの周りの空気をより一層冷たくさせている。

毎日教会の掃除等で出入りしている小間使いでさえ、そのように壁を作っている時の“司教様”には誰も声をかけずにそそくさと用事だけを済ませて帰っていくのが常だった。

他人に干渉されることを好まないヤナギダ自身も、それでいいと思っていた。
そしてこれからも死ぬまで同じような毎日が続くのだろうと。

あの男が現れるまでは――――――――


【RPGパロ小説連載(7)】 天使と悪魔

『面白そうな本読んでるね』

本の世界に没頭していたヤナギダは突然降りかかった声にハッとして顔を上げた。

「今日もいい天気だな」

声のした方を振り返ると、いつの間にか赤髪の男が
ニコニコと人好きのする笑顔を張り付かせて後ろに立っていた。
その男は呆気に取られるヤナギダの素振りを気にするでもなく、
ヤナギダの持っていた本を眺めて「読んでる内に眠くなりそうな分厚さだ」と笑っている。

「……」

一応、この教会の敷地内には微弱ながら魔物避け用に結界が張ってあった。
結界は一般人の目には見えず危害もないものの、その結界の空気を感じて人はあまり寄ってこない。

“冷たい空気”といのはこの結界が知らずにもたらしているものでもある。
ここに迷い込んでくる者は、霊感というものにとても疎い者か、またその逆の者だけであった。
後者の方は今まで経験がないが。

「あ。扉が開いてたから勝手に入ってきちゃったけど、マズかったか?」

そう言われて赤髪の男の後ろにある庭に備え付けられてある木枠の扉に目を移すと、確かにいつも簡単にだが施錠してある鍵が外れて落ちていた。
小間使いの者がかけ忘れたか何かなのだろうが……。

しかし、書物に没頭していたからといって、人の気配に少なくとも敏感である方である自分が教会内に、しかも庭に入りこまれた事が分からなかったなんて。

点と点を結ぶ結界魔法ゆえに扉の綻びは結界の綻びに繋がる。
結界が弱まっているのはこれが原因だろう……か?

「……教会に用ならここを出て右に行きなさい」

何だか嫌な予感がして、つとめて平静を装いながら、目の前の赤髪の男に話しかけた。
教会に用ならば、ここに来るのはお門違いだと。

「いや、教会に用があったというか。まあ…なんだか懐かしい匂いがしてね」
「……?」

何を言っているのだろう。
その疑問が顔に出ていたのか、ヤナギダの顔を男は楽しそうに見ながら
テーブルに積み重なっている書物の一冊をパラパラめくり始めた。

「おい……!」

勝手に他人のものを物色するなと注意しかけて、ヤナギダはある違和感を感じた。
日の差し掛かった庭の地面に映し出された影が“一人分”しかないのだ。

「ふうん……魔避けにもいっぱい方法があるんだな」

そして気付いた、その本が常人に読める文字では書かれていないことに。

弱い結界は効かない。
人間に化けられる。
文字が読める。
人語がしゃべれる。

これに共通する魔物のことをヤナギダはよく知っていた。

「…………貴様、何者だ」

バッとすばやく男との距離を取り、魔道札を掲げた。

「あれ?やっぱ気付いた?」

この男―――――悪魔だ。

つづく


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